エミッションフリー(無公害)鉄道に力強い牽引力を
昨今、ヨーロッパの車両メーカーは、エミッションフリー(無公害)な新世代のバッテリー駆動車両の開発を行っています。
その車両は約15kmかそれ以上の距離を、自らの力で動くための動力が必要となります。サフトのリチウムイオンエネルギー専門・モビリティ製品エンジニアリングチームの責任者であるPhilippe Blanchardは、酸化チタン酸リチウム(以下LTO)蓄電池の高速充電能力が、この用途における厳しい要求に対して、なぜ理想的な解決策になりうるのかを説明します。
LTOは、サフトで大きく成長しているリチウムイオン(Li-ion)テクノロジーのポートフォリオに加えられる非常に重要な技術のひとつであり、それらは、他のLiイオン蓄電池に見られるグラファイトまたは炭素ベースのアノードとは対照的に、チタン酸リチウムベースのアノードを特徴とするものです。
これにより、非常に高い充放電効率を実現することができるため、高速充電が必要なアプリケーションに最適なソリューションとなるわけです。通常、LTOバッテリーは、わずか 10 分程度の時間でフル充電することが可能です。
また、LTO の科学的性質は、運用に関しても非常に柔軟性があります。例えば、いずれの破壊的な影響なしにゼロパーセントでのState Of Charge またはゼロボルトの状態でも保存することが可能です。
短絡現象や機械的な損傷のような誤使用状態が発生しても、それはとても安全な挙動を有します。この高レベルの固有の安全性能は、システムレベルでの火災抑止及び他の安全対策をとる必要性を低減させることができます。
全体として、LTO バッテリーは、高速充電と安全性が最優先され、エネルギー密度を重視しない、より単純でコスト効率の良いバッテリーシステムを生み出す可能性があるわけです。
電車の「オフワイヤ」化
サフトは、都市間を結ぶ鉄道および市内鉄道サービスが、無公害で持続可能な電力の有益性を獲得することを可能にする、いろいろなプロジェクトで大手の鉄道車両製造メーカーと協力しています。
しかし、バッテリーを使用することは、鉄道ネットワークの拡大に伴う電化への投資コストを回避することができます。ここでは、充電に利用できる時間は“時間”単位ではなく“分”単位で測定されるため、LTO バッテリーの高速充電能力は極めて重要になります。
ある状況では、電車(EMU)でも「オフワイヤー」(つまり架線を使用しない)が可能となり、架線を離れて、電気の通っていない線区の最後の数キロメートル程度においてバッテリー電源をオンにして走行することができます。より長距離の無架線状態でも稼働できるよう、充電ステーションは、線区の末端に設置されるか、場合によっては経路に沿って設置されることがあります。
別の状況では、車載のバッテリーが、主電源(架線)に再接続されるまで、列車を長い中立区間(デッドセクション)―例えばトンネルや橋のような長い中立区間― を通過させることも可能にできます。これにより、よりコスト効率良く、電気的に不連続な場所が発生しても問題なく運行ができます。
オフワイヤの場合でも、LTOバッテリーにより、電車はディーゼル列車を凌ぐことができます。加速が速ければ早いほど、旅行時間が短縮され、より軽量で、はるかに効率が良く、維持費も削減を期待できます。
LTO バッテリーは、高速充電が必要なアプリケーションに最適です。通常、LTO バッテリーはわずか10 分以内でフル充電にすることができます
フィリップ・ブランチャード氏 サフト・リチウムイオンエネルギー専門・モビリティ製品エンジニアリングチーム長角型仕様の市販化を準備
サフトは、6年ほど前からLTO電池の開発を進めてまいりました。約2年前には、すでに量産化の段階に達しています。米国ジャクソンビルにある弊社の工場では、現在、28 Ahの容量を提供する第1世代のセルを出荷しています。そして、2021年には容量を31 Ahまで増やす予定です。
弊社では、LTOセル用に、円筒型ではなく、角型形状を採用いたしました。これにより、最低10年、場合によっては最長15年の耐用年数を持つ高信頼性と耐久性を実現できると共に、組電池時の効率の良いパッケージングを提供できます。
LTO – 鉄道用だけではありません
私たちの初期のターゲットは鉄道用途ではありましたが、弊社のLTO技術は、高速充電と長いサイクル寿命を組み合わせたバッテリーを必要とする他の様々な用途での使用にも適しています。
その一例が、倉庫や病院などの物流用途に使われるAGV(無人搬送車)です。使用していないときは、充電ドックに戻ることができ、また高速充電により、充電不足が発生しないように管理することができます。
LTO バッテリーはまた、LEO (地球低軌道)で作動する小型衛星にもいくつもの利点を提供することができます。主なものとしては、重量の削減です。動作温度範囲が広いため(-30℃~+70℃)、宇宙での動作に必要な温度に保つためのヒーターが必要なくなり、システムが簡素化され、使用可能になるエネルギー量が増加します。
また、太陽光による再充電の時間が短時間しか利用できないレーダー/アジャイルLEO衛星にとって、高い充放電率は非常に有利になります。
LTO の次の技術は?
サフトの研究チームは、常に次の段階を目指しています。NTO (Niobium Titanium Oxide – ニオブチタン酸化物)を次世代のアノード材料として使用するLTOバッテリーの潜在的な後継技術について、既に研究を開始しています。NTOは、LTOバッテリーの利点のすべてを提供することができ、さらに20%も高いエネルギーを貯蔵できるようになります。
Philippe.blanchard@saftbatteries.com
- LTO バッテリを完全に充電するには 10 分間
- 100,000 サイクル(放電深度による)